中国の明の時代に書かれた代表的な本草学(疾病治療に使用する動植物や鉱物を研究する学問)研究書『本草綱目』に、「しじみは酒毒、黄道を解し、目を明らかにし、小便を利し、脚気、熱気、湿毒を下す」という表記があります。
こうしたしじみの健康効果は、江戸時代のころには既に日本でも経験的に実感されていたようです。当時は、「しじみよ~、しじみよ~」のかけ声でしじみを売り歩くしじみ売りの姿も多く見られたとか。そのほかに、「寝汗に良い」「黄疸に効く」といった健康効果も広く知られていたといいます。
このようなしじみの健康効果、パワーの秘密はオルニチンによるものだということが、近年の研究で明らかになってきています。先人たちはオルニチンの存在は知らずとも、その確かな健康効果を経験を通じて知り得ていたというのは、非常に興味深い話です。「お酒を飲んだ後にはしじみ汁」。昔からのいい伝えには、確かな根拠がありました。
「肝臓に良い食材」としての認知度が高いしじみ。その効果のカギはオルニチンにあると考えられます。肝機能改善に有効な成分はオルニチンのほかにも「BCAA」「タウリン」「アラニン」「ビタミンB12」などがありますが、それらの成分は牛乳やホタテ、イカ、アサリにも、しじみと同程度かそれ以上に含有しています。しかしオルニチンはほかの肝機能改善に有効な成分と違い、しじみだけに飛び抜けて多く含まれる成分なのです。
1)協和発酵バイオ社内データ
2)Antoine FR. et al., J Food Sci., 66(1):72-7, 2001
3)Frau M., et al., Food Chem., 60(4):651-7, 1997
4)Antoine FR., et al., J Agric Food Chem., 47(12):5100-7, 1999
5)Prieto JA., et al., J Chromatogr Sci., 28(11):572-7, 1990
しじみには夏と冬の2回旬があり、冬のしじみのほうがオルニチンを多く含んでいます。しじみを冷蔵庫に入れて4℃、2℃、0℃と少しずつ温度を下げていくと、しじみのオルニチン含有量が-4℃くらいで大きく増えます。凍ってしまうという、しじみにとって生死に関わる瀬戸際で、生体防御作用がはたらくという説があります。台湾や韓国では、しじみを凍らせてから食べるといいます。もしかすると知らず知らずのうちにしていたこの行為は、オルニチン含有量が温度によって変化することを、体験的に知っていたのかもしれません。
Uchisawa H., et al., Biosci Biotechnol Biochem., 68(6):1228-34, 2004
全国各地にしじみの名産地とうたっている場所がありますが、実際に日本で一番しじみが採れるのは島根県の宍道湖です。農林水産省の「平成30年漁業・養殖業生産統計」によると、しじみの年間漁獲量は9,727トン。最も多いのは島根県( 4,177トン)、ついで青森県(2,760トン)、茨城県( 1,173トン)です。この上位3県で日本のしじみ漁獲量の約83%を占めています。